お盆参りを回っていると、時期もあり戦時中の話を伺うことがあります。終戦近くに千島列島最東端の最前線で戦ったことがあるよ、サハリンからの引き揚げ中に攻撃されて沈没しかけた船の生き残りなんだよ、といった生々しい話です。知識としては歴史を学んで知ってはいますが、実際に体験された人の想いは直接聞かないとわかりません。
『ラーゲリより愛を込めて』という映画をご存じでしょうか?終戦後、シベリアに抑留された山本さんという日本人の実話を元にしたお話です。シベリアの収容所という過酷な環境下で強制労働を強いられながら、帰国を信じて懸命に生きる山本さん。しかしある日、山本さんが癌になり、容態も悪く、帰国が絶望的になります。そこで4人の仲間は山本さんに遺書を書かせ、それを自分たちが日本にいる山本さんの家族に届けることを決意します。しかし収容所の監視は厳しく、山本さんの遺書もいつ没収されるかわからない状態でした。そこで4人は、4通あった遺書を手分けして暗記することにしたのです。案の定、遺書は没収されてしまいましたが、4人は帰国の時まで必死に一言一句を暗記し続けました。山本さんの死から3年後、帰国した4人は、それぞれ山本さんの家族へ自分が暗記した遺書を届けました。1つは家族みんなへ、1つは4人の子どもたちへ、1つは母へ、そして1つは妻へ。無事にすべての遺書が届き、山本さんの連れ添いさんが「あなた、おかえりなさい」と言ってラストシーンを迎えます。
私が印象的だったのは、遺書を届けた4人それぞれが、書き起こした遺書を渡したあと、暗記していた文章を声で伝えたことでした。文字だけで伝えるのではなく、同じ時間を過ごした亡き山本さんの想いとともに伝えたのです。口伝というのは、文字で伝えるだけより、書いた人の想いはさらに伝わりやすい。私たちが今いただいているお念仏も、想像できないほどたくさんの時間とたくさんの人を経てこの私に届いている。途絶えそうになる苦難もありながら、時に文章で、時に口伝で、仏さまの想いがお念仏とともに脈々と続く道となって伝わってきたのではないでしょうか。
これまでの念仏者のご苦労とおかげさまを思いながら、私も想いを受け取った1人として、このナンポロから、お念仏を聞かせていただく道、仏さまの想いを伝える道を歩ませていただきます。
南幌町妙華寺 神埜卓哉