法話

Stay hungry, stay foolish

タイトルの言葉はスティーブ・ジョブズ氏が、2005年6月にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの締めくくりとして、卒業生へ送った言葉です。

スティーブ・ジョブズ氏はアップルという会社の創設者の一人であり、様々な功績がありますが、iPhoneを作った人と言えばわかりやすいかもしれません。2011年に56歳という若さで膵臓がんで亡くなってしまいました。彼は仏教に対しても非常に深い関心と理解を持っておられたそうです。

直訳すれば「ハングリーであれ、愚かであり続けろ」ということになります。

Stay hungryとは、ハングリー精神とも言うように、挑戦する心を持つことの大切さを語っており、楽ちんな方向に流されがちな自分に対する叱咤激励、「これで良いのか問い続けなさい」というジョブズ氏からの問いかけでしょう。

Stay foolish、愚かであり続けろとは、周りの意見や常識に捉われ、優等生を演じてしまう自分、自分自身を見失いがちな自分、また常に自分は正しいと思い込んでいる事に気づかされる言葉かと思います。

浄土真宗の宗祖である親鸞聖人は、関東にいる門弟(もんてい_弟子)たちに対して、念仏の教えを伝えるためにたくさんの手紙を京都から書き送ったそうです。

その中でも最晩年の88歳の時に書かれた手紙の中に、

故法然聖人は、「浄土宗のひとは愚者になりて往生す」と候(そうら)いしことを、たしかにうけたまわり候いし

(『親鸞聖人御消息』/註釈版聖典771頁)

【現代語訳】

今は亡き法然聖人が「浄土の教えに生きる人は愚者になって往生するのです」と言われたことを確かにお聞きしました

と、書かれております。

「愚者になりて往生す」とは、師である法然上人から直接聞いた言葉です。親鸞聖人が法然上人と出遇い、共に過ごすことができたのは29歳から35歳までと言われておりますが、そのわずかな期間に法然上人から聞いた言葉が、大切な教えとして親鸞聖人の心の中に残り続けていたと思われます。

親鸞聖人、法然上人、スティーブ・ジョブズ、この3人に共通する「愚かさ」とは、一般的な教養の有無において語られる愚かさではありません。

欲望にとらわれて自分を見失ったり、自分にとって都合の悪いものを排除し他者を傷つけ悲しませたりするような愚かさや、自己中心的なモノの考え方、そこに人間の愚かさがあるのではないでしょうか。

「愚者になる」とは、そのように生きる人間としての自分自身の愚かさをよく知るということだろうと思います。

そう考えますと、Stay hungry ,stay foolishというジョブズ氏のメッセージは、「今がこれでいいか問い続けなさい。愚かな身である自分に気づきましょう」という、厳しくも温かい法然上人や親鸞聖人にも通ずる言葉に聞こえてなりません。

美唄市 正教寺 永岡龍人

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